管理コスト節約のアイデア

コスト削減のための戦略

 今日ゴルフ業界が置かれた経済環境は非常に厳しいものです。価格競争により年々プレー代が下がってきている中でプレー人口もも減少しつつあり、ゴルフ場の経営を圧迫しています。プレー代についてはそろそろ下げ止まった感があり、次の段階としてプレーヤーの囲い込み競争が激化しています。特に大都市から遠いゴルフ場ではプレー代が下がり切ってしまっていますので、プレーヤーのゴルフ場選びの基準は価格だけでなく芝生の状態の良さに重きを置くようになってきています。

 このような状況下ではできるだけコース管理コストを抑えつつも、大多数の一般プレーヤーが満足できるレベルで芝生の状態を維持することが必要になってきています。

 芝草の管理方法は百人百様であり地域的・気象的な要因もありますので、どれが正しいとか正しくないとかの議論は意味がありません。しかし、管理コストを削減したり簡便にしたりするための方向性というのは存在します。以下にそのためのアイデアをいくつか提案させていただきますので、ご参考としていただけましたら幸いです。

 

 

殺菌剤の予防的使用を減らす

 ゴルフ場では殺菌剤の予防散布が頻繁に行われていますが、本当に必要なものかどうかを考える必要があると思います。殺菌剤の大量使用は地力を低下させます。

 一方で病害による症状だと思われていたものが、いろいろ調査しても原因がわからず、結局生理障害だったということはよくあることです。

 前の年に起こった症状の原因がわからなくても、とりあえず今年は予防的に幅広い病害に効く殺菌剤を使ってみましょうと勧められることもあるかもしれませんが、そのようなことを繰り返していたら優良な菌まで皆殺しにしてしまい、土が痩せてしまってかえって病害に弱い環境になってしまいます。無駄にお金をかけて病害を呼び込んでいるようなものです。

 前年に症状が出た芝生の予防対策を考える際には、まず生理障害だったのではないか、もしくは生理障害によって発症した病害ではなかったかと疑うようにして、まずは丈夫な芝を育てる事と健全な土壌をつくる事をまず第一の目的とし、減農薬を目指してください。

 また病害であったとはっきりしている場合であっても、予防散布の段階では様々な病気に効く強力な殺菌剤は使用せず、弱めの殺菌剤を少量使いましょう。実際に病害が現れてきたらそれに合わせてだんだんと強いものに変えていきます。最初から強力な殺菌剤を使って土壌微生物のバランスを崩してしまわないようにするためです。

 

 

化学製品の慢性的な使用を見直す

 浸透剤や成長抑制剤などの化学製品はものによっては適切なタイミングで使用することで良い効果が出るものがあります。しかし慢性的に大量投与することはコストや労力がかかるだけでなく、芝草や土壌にダメージを与える恐れがありますので避けた方がよいと考えます。

 特にベントグリーンにおいては、このような化学製品は使わないで済むに越したことはありませんが、もしどうしても使わなければならないときはできるだけ濃度を薄くして、用量を最小限にし、細かく回数を分けて散布すのがよいと考えます。

 ドライスポット対策では完熟堆肥(土壌改良材)を使うことで土壌を団粒化させて保水力と透水性のバランスを取ることが最も安全で確実な方法と考えます。また夏は、化成肥料ではなく有機質肥料を与えることで芝の伸び過ぎ(徒長)が起こらないようにします。即効性はなくとも安全かつ確実な対策を事前に行っておくことで労力や資材コストを節約できる上、地力も上昇し、様々な障害に対して緩衝力のある土壌となります。

 

 

微量要素について(ケイ酸、補酵素)

 近年一部の田んぼでは、長年の稲作で土壌に含まれるケイ酸が少なくなってきたためにケイ酸を補給するケースが出てきています。芝草もイネ科だからということでしょうか、最近ではグリーンにもケイ酸を与えましょうという話を聞くようになりました。茎葉の軟弱化を防ぎ害虫の被害も抑えられるそうですが、優先順位としては疑問があります。ゴルフ場の特にグリーンにおいては頻繁に目砂をしており、田んぼとは全く状況が違いますので、ケイ酸の不足が深刻になるとは考えにくいです。

 一般的に芝草の茎葉が軟弱化して病害虫が出やすくなるのは、芝草の体内に硝酸態窒素が過剰に残留しているときの特徴です。土壌中のケイ酸不足を疑うより先に、硝酸態窒素を疑った方がよいと思います。

 また微量要素は植物の体内で補酵素として働きますので植物にとって重要なものですが、やり過ぎはよくありません。通常の微量要素資材には何の物質がどれだけ含まれているか成分が記載してありますのでそれを参考にして使用量を決めていただければよいのですが、まれに何が入っているのかわからない(補酵素とだけ書いてある)ような資材もあり、こういうものは使用する側がリスクを取る必要があります。有機化合物の補酵素(NADやビタミン)が豊富な天然素材が含まれているということであれば特にリスクはないでしょうが、そういった物質は植物が自分の体内で普通に作り出しているもので、あえて外部から吸収させる必要はないと思います。

 食生活が偏っている人には栄養補助食品が必要だという意見もあるかもしれませんが、それ以前にバランスの良い食事をとって健康な体を作ることが優先であることは言うまでもありません。芝生の管理についても全く同じです。原因がわからない障害が出ると微量要素や病原菌などについ目が行きがちですが、まずは土・空気・水・光そしてそれらを利用して植物の生命の源となる光合成と呼吸と窒素同化作用に注目することが問題解決への近道であり、無駄なコストを節約する方法でもあります。

 

 

芝張り・補修

 コーライやノシバなどのソッドを張るときには、ベタ張りするのではなく少し隙間を開けた張り方(目地張り)の方が効率的です。ランナーの伸びる時期では目地は5cm以上あっても問題ありません。たとえソッドで埋め尽くしたところで張り替えた場所は根が定着するまでプレーはできませんが、根が定着するのを待っている間に目地はランナーで十分に埋まってしまいますので目地張りの方が無駄がありません。

 また日本芝・洋芝を問わず、ランナーの伸びやすい芝はソッドで張るのではなく、ポットに挿し芽をして根が出た頃の苗を地面に約20cm間隔で植えるというやり方が最も効率的です。しっかりと根付いてランナーが出るので意外に回復が早く、約3か月でビッシリと生えさせることも可能です。

 ソッドとポット苗のいずれの場合でも、根と土の間に完熟堆肥を入れると活着がよくなりますので、回復期間を短縮できます。

 

 

晩秋施肥

 晩秋施肥とは一般的に初霜が降りる1~2週間前(12月中旬まで)を見計らって即効性の化成肥料を普段より多めに施肥することと言われており、近年採用されるゴルフ場も増えてきております。 しかし我々は雪で長期間クローズするような寒冷地を除いては、芝には晩秋施肥は不要と考えております。

 理由はまずタイミングがシビアであることで、施肥が早すぎれば過剰の窒素吸収が徒長を促しかえって貯蔵養分を浪費してしまいますし、逆に遅すぎると十分な効果が得られません。

 また、春の芽出しを目的とするのであれば、3月初旬の施肥でも効果があり、晩秋施肥は冬~春の雑草(スズメノカタビラなど)を増加させてしまう弊害があるという実験結果があります(千葉農試)。

 もちろん冬になる前に貯蔵養分を蓄えて、冬期にできるだけ長く緑色期間を維持することと、春季の萌芽を促進することは重要と考えておりますが、そのためには11月下旬までに有機質肥料を与えるのが安全かつ効果的と考えております。

 有機質肥料では化成肥料のような急激な徒長は起こりませんので、貯蔵養分を浪費することはありませんし、長期間マイルドに肥効が出ますので気温・地温の変化が例年と異なってしまったとしても影響をあまり受けません。

 

 

有機質肥料をベースに施肥計画を立てる

 有機質肥料に含まれる窒素成分はほとんどがたんぱく質・アミノ酸・核酸等の有機態窒素になっています。有機態窒素は土壌中で流亡しにくく有効に利用されます。土壌に与えられた有機態窒素は数か月かかって一部は無機物に分解されながら、また一部は有機態のままゆっくり吸収されますので、窒素過剰による生理障害のリスクが軽減されますし、芝草の徒長を防いで刈込が楽になるという利点もあります。 何より地力が上がりますので、丈夫で健康な芝を育てるのに役立ちます。

 また、有機質肥料は化成肥料と比べると価格が安定していますので、有機質肥料を中心とした施肥管理を行っていれば肥料コストのブレを小さくできます。

 ただし有機質肥料であっても品質が安定していなければ意味がありませんので、信頼できるメーカーが作ったもので、成分がきちんと保証されている製品を使いましょう。